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最高裁判所大法廷 昭和25年(あ)586号 判決 1953年5月06日

主文

本件上告を棄却する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人神尾弌春の上告趣意について。

憲法二二条一項に「何人も公共の福祉に反しなり限り、居住、移転……の自由を有する」というのは、日本国内のいずれの地でも自分の欲するところに、居所又は住所を定めることを妨げられないこと、及び一旦定めた居所又は住所を他に移すことを妨げられないことを保障したものである。しかも、それは絶対的にかかる自由が保障されているというわけではなく、この自由と公共の福祉との比較権衡上公共の福祉のために制限を受ける場合があるのである。それ故に、住民を保護し取締る目的から新たに一定の場所に住居を定めたものに対し、その旨の届出若しくは、登録をなすべきことを命じ、これに違反するときは制裁を科する旨の規定を設けたからといって、それは、居所若しくは住所を定めること自体を制限するものでもなく、又居所若しくは住所の移転自体を制限するものでもないから、かかる規定は、憲法二二条一項に違反し居住、移転の自由を侵害するものであると言うことはできない。従って、外国人登録令(昭和二四年一二月三日政令三八一号による改正前のもの、以下同じ)が同令の適用については、当分の間、朝鮮人を外国人とみなし、戦争中より日本内地に在住する朝鮮人に対し、居住地の市町村の長に対し、所要の事項の登録を命じ、これに違反して登録の申請をなさず又は虚偽の申請をなしたときは、処罰する旨規定したからといって、憲法二二条一項に違反することはない。してみれば、このことを規定した同令四条、一二条二号、附則二項三項の規定は何等憲法二二条一項に違反することはなく、右各規定を適用して被告人を処断した原判決並びに第一審判決には何等違憲はないから論旨は理由がない。

よって刑訴四〇八条、一八一条一項により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官栗山茂の少数意見を除く、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官栗山茂の少数意見は次の通りである。

外国人登録令が朝鮮人たる被告人の居住移転の自由を制限しているのは憲法二二条に違反するという所論違憲の主張は原審で主張されず従て原判決の判断を経ていないことは原判文自体で明白であるから、所論は刑訴法四〇五条一号にいう高等裁判所がした第二審判決に対し憲法の解釈に誤があることを理由とする上告の申立にあたらないこと明である。よって上告趣意は不適法として棄却さるべきものである。その理由についてはさきに昭和二六年(あ)第四六二九号同二八年三月一八日言渡大法廷判決において述べたところに変りがないからここに引用する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎)

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